未完成という完成
2008年、日本の建築家が数人選出され、面接によって我々がプロジェクトに関わることになった。面接時、最も強く話した内容は、私たちの事務所は非常に柔軟な考えを持っており、プロジェクトごとにクライアントやエンジニア、ランドスケープアーキテクト、デザイナーなどと、化学反応を起こしながら、プロジェクトを進行しているため、アウトプットは毎回違うべきであるということであった。つまりそれは、場所や環境によって建築のあり方を問う行為であり、一見すると作家性がないかのように見えるかもしれないが、多様であるということが作家性になりうると言う事でもあるという考えを彼らに伝えた。
オーストラリア/キャンベラでのプロジェクトは集合住宅・オフィス・ホテル・飲食店などを併設させたコンプレックスビルディングの計画である。太陽があたかも西から昇っているかのように錯覚してしまう南半球では文化が違う事は言うまでもないが、建設における施行制度や考え方も大きく違い、その基本的な考え方を吸収するところから計画が始まった。
湖に隣接した敷地において最大限に光や風を享受できる形態を求め、エンジニアチームと議論しながら最小限の操作による非常にシンプルなデザインの中にある、新しさをみつけることが求められた。型枠制作の簡易性によってコストコントロールを、外壁面の出入りによって光を調整を行い、その機能の結果として現れる形態が、この場所におけるシンボルになる状態を作り出した。
あれから時が経ち、社会は以前よりも一層多様化した現在があるが、このプロジェクトで考えたこと、シンプルな新しさは決して古びることなく、内部機能が設計過程の中で大きく変動したにも関わる事なくあの時に考えた事が実現された。それは変化を受け入れるという前提から、設計をしていくということで、完成させるというゴールを目指すのではなく、むしろ育てていく建築の姿がそこには存在している。私たちは日々、未完成という完成、つまりはgrowing architectureを模索し続けている。