雄大な自然に浮かびあがる鉄の彫刻
住宅とホテル。その境界はどこにあるのだろうか。食べる、寝る、入浴する、生活における行為とホテルで過ごす行為は同じであり、サービスの有無があるとしても、日常と非日常として語られることに以前から疑問を感じていた。NOT A HOTELは、住宅として使い、ホテルとして貸すという異なる目的をテクノロジーによってスマホひとつで簡易に変更し往来できるシステムと、シェア購入可能な仕組みで建築の所有と活用の概念を拡張している。別荘の所有者が使わない日を一般に解放することで宿泊が可能となり、その瞬間、用途がホテルになる仕組みだ。プロジェクトは弊社で敷地を紹介させていただくところから始まり、この場所に何棟建てるべきなのか、またどれくらいのサイズを計画するべきなのか、クライアントと共に話合い、検討を繰り返す中で導かれていった。
建築計画は素材やプランは違っていても、共通のルールの設定として、雄大な自然に負けない強さと、それでいて自然との共存が必要だと感じ、コンクリートと鉄といった普遍的な材料で建築を彫刻のように扱い、ソリッドな大小のボリュームの連なりにより周囲の自然と馴染ませランドスケープの一部となることを意図した。また人工物でありながら自然に近い解放感を作るため、壁と屋根のある守られた外部空間があることをルールとして設計を進めた。内部においては視界に天井を感じない空間スケールを設定し、大きな垂れ壁を設け、天井壊に向けて暗がりを作り、暗い室内から明るい外を見ることで風景を顕在化させる構成とした。鉄で作られたMasterpieceは火を囲い人との関わりを優先した動的な環境、THINKでは本を読んだり仕事をするなど、個と向き合う静的環境にプライオリティをおいた。各々の大小広狭の多様なスケールによる空間体験が、日常と非日常を融合し、住宅とホテルという用途を横断できる建築が可能となった。
当初依頼を頂いたとき、携帯で住まいを買う時代を作りたいという言葉に驚いたが、その時代を作っていく強い意志に共感してプロジェクトをお受けさせていただいた。webでの販売開始された翌日、NOT A HOTELの仕組みが時代に受け入れられた結果を伺った。ライフスタイルが多様化し、住むこと、所有の在り方への価値観が変わりゆくいま、テクノロジーは不可能を可能にし始めている。建築を設計するという対象や価値観が広がる時代に、我々も常に設計者としての思考を更新していく必要があると感じている。