ONOMICHI U2

活かすこと、残すこと、循環していくこと

「サイクル」ということをテーマに
街の人々が昔から知っている風景に
現代の価値観を挿入することで
「懐かしい未来」をつくり出し
地域の人々が改めて尾道の魅力を発見する
きっかけをつくり出すことを目指した

小さな公共性

「サイクル」をテーマに街の魅力を引き出すプロジェクトである。

広島県尾道市は海と山に囲まれ、古民家の立ち並ぶ美しい坂の街、尾道として、多くの観光客やサイクリストが訪れる。

私たちは海沿いの古い倉庫をコンバージョンし、新たな拠点施設として、ホテル、サイクルショップ、イベントスペース、バー、レストラン、ベーカリー、コーヒーショップ、食品やアパ
レルなどの物販店を併設した商業施設として利用する案を提案した。

1943年建設の船荷の倉庫だった県営上屋2号倉庫の古い躯体をそのまま残し、その中に新しい建築を足していくことで歴史を継承しつつ、尾道の街の建物と路地空間の関係を倉庫内につくり出した。

小さな古民家が密集する尾道の街並みのように「小さなスケールの連続と路地」という関係を継承し、自転車のリペアを行う路地、地元住民やトラベラー同士の情報交換の場となる縁側を配し、建物全体を「街」と見立て、人々の関わりを生むきっかけを散りばめた。

マテリアルには古民家や造船の街にちなんだ、木材、モルタル、スチールを採用し、魚灯を連想させるような照明のアクセントなど小さな要素を緻密に設計し、この街らしさを体験できる空間をつくり出した。

世の中が均一化していく中で、「時間が紡ぐ古いものの価値」と「その街らしい新しさ」の共存関係に都市の魅力を活かす鍵が潜んでいるのではないだろうか。このプロジェクトでは、街の人々が昔から知っている風景に現代の価値観を挿入することで生まれたコントラストによる「懐かしい未来」をつくり出、地域の方が改めて尾道の魅力を発見するきっかけをつくり出そうとした。

ONOMICHI U2では、「尾道らしさ」を継承した建築的操作と、街自体を活かす丁寧なブランディングによって、街の中に散り散りになっている尾道らしさを再編集し、公共性、個人を超えたところにある従来の価値観ではなく、日常生活の中にある小さな出来事を紡いでいくことによって生まれる「小さな公共性」について考え続けた。

公共という意味を再編集すること、それはこれからの尾道を、また日本の地方の魅力を引き出していくのではないかと私たちは考えている。

Three Cycles

このプロジェクトは、広島県が主催する設計と事業のプロポーザルであった。日帰り観光の街といわれる尾道で、街が観光地として成長を遂げるためには、人が滞在できることが大切なのではないか。泊まったり、食事したり、買い物を楽しむ場所が必要で、それが街自体を育てていくきっかけになるのではないかと考えた。そこで私たちは、倉庫の中にホテルと商業施設を複合化させた事業を提案をした。

サイクリストがたくさん来る場所であることから「自転車というサイクル」、リノベーションであることから「建物を再利用するというサイクル」、尾道の温暖な気候、1日の快適さといった「1日のサイクル」をここで感じてもらいたい。この3つのサイクルをテーマに施設を構築していった。

Nostalgic future, and memory

リノベーションをすると建物が新しくなる。以前からその建物を知っている人にとっては、昔のことが語れなくなるのは残念なことだ。今回の敷地は海運の倉庫だった建物である。その姿を残すことで、ストーリーを話せるようにデザインする必要があった。

意図的に既存の建物に手を触れない。もちろんそこには構造的な条件もあったが、昔からあったこの建物をできるだけ残しながら、新しい施設として蘇らせる、古いけれども新しい、懐かしい未来というテーマで賑わいをつくり出すことを考えた。U2という名前も、県営上屋2号から、Uと2をとって名付けたものだ。

Structure

海運倉庫の風化したコンクリートの駆体や大きな鉄扉、天窓から入る自然光が印象的で、そのまま活かそうと考えた。

既存の建物に寄り添わないように、古い倉庫の中に建物を設計した。通常はコンクリートで基礎をつくるものだが、既存の建物に新しい加重をのせることが構造的に難しい。基礎自体に鉄骨を使い、全体に軽量鉄骨を使用した。建て方、解体が容易な軽量鉄骨による架橋システムで構成し、既存駆体に耐震補強を施した。接合部分はボルト接合。また、機械を入れることができなかったので、鉄骨を手運搬で建てた。

昔ながらの方法で、現代のテクノロジーで構造解析をして、実現できる仕組みをつくり出した。既存のものを残しながら、新しいものを挿入して、古さの中に新しさが顕在する、デザイン面の魅力と構造的な問題を同時に解決したプロジェクトである。

Ambience: Designing the air

瀬戸内の温暖な気候を体感できる小環境をつくることが、この地を訪れた人へのおもてなしとして、環境を含めたデザインとなることを計画した。

高品質な環境をつくるためには、高い断熱性能が必要である。しかし断熱のない倉庫の風景をそのまま残すために、新しい建築プログラムと自然採光の在り方を検証した。

海陸風を利用した自然換気と輻射冷暖房によって、居住域の温冷感を柔らかく整え、エアコンのように風や空気を温めるのではなく、物体そのものの熱を移動させる、遠赤外線を利用した冷暖房システムだ。1年の温度の移り変わりを
エンジニアリングし、湿度をコントロールし、空気をデザインすることで、環境自体もデザインすることができる。イニシアルコストはかかるが、長期的にランニングコストが押さえられ、経済的な設計となっている。

Regionality, Locality

大きな倉庫を大きな敷地として考え、倉庫の中に尾道の街に小さな建物が立ち並ぶ風景をつくり出すことによって、街との連続性や、尾道らしさをこの場所につくることを考えた。
昔から変わらず使われている材料や、街の中にある素材を、技術・デザインの中に取り込んでいく。鉄やモルタル、あえて劣化したような素材を使用した。例えば漁船で使われている照明、この地に残る伝統産業のひとつ、160年の歴史を持つ備後絣というテキスタイルをベッドカバーや椅子の張り地に使用している。またパジャマも、地域産業であるデニム素材を使うなど、この街でしかできない体験を提供している。

Total design / Branding

空間のデザインだけでなく、空気も、雰囲気も、全体をディレクションしたことが特徴のプロジェクトだ。U2はひとつの施設だが、その中にはレストラン、バー、物販店( 雑貨、洋服、本)、パン屋、カフェ、自転車屋、ホテルなどがあり、それらの店が集まって街になっている。当然、それぞれの名前も異なることから、ネーミング、ロゴマークやアートワークの選定から、ユニフォーム等のディレクションまで担当した。

コーナーに置かれるガラスの器から、本棚の本、細かな備品に至るまで、自分たちで選んだ。設計者はコンテンツが決まってから依頼されることが多いが、事業の提案、コンテンツの選定から関わることができると、つくる意味を理解
して、コンセプトと空間の親和性を高めることにつながるのではないだろうか。

SHIMA SHOP

ONOMICHI U2はずっと継続しているプロジェクトでもある。SHIMA SHOPは竣工後に追加でデザインを行った物販スペースであるし、デッキスペースに昔の茶店のような家具をつくって、縁側のような新たなスペースも設計している。継続しているということはこの場所に足を運ぶということで、自分たちがつくった場所を見守り続けているということにもなる。建物をつくって、施主に渡してしまえば終わりという関係がある中で、未完成でいて、育てていく、こういった関わりを持てるプロジェクトは大切にしていきたいと思う。

data

竣工

2014年3月

所在地

広島県尾道市

用途

ホテル、商業施設

構造

RC造一部S造

階数

地上2階建

施工期間

2013.10-2014.03

敷地面積

5247.17㎡

建築面積

2301.13㎡

延床面積

2967.00㎡

credit

施工

大和建設

構造設計・環境設計

ARUP

設備設計

佐藤設計

内装設計(GIANT)

undesign

照明計画

MAXRAY

植栽計画

NIWATAN DESIGN + ARTISAN OFFICE

SOLSO

家具

E&Y

Complex Universal Furniture Supply

金物

カモクラフト

木工

アサヒ工芸

グラフィック

10

UMA

プロジェクトコーディネート

オフィスフェリエ

KYTパートナーズ

写真

矢野 紀行

担当者

谷尻 誠

吉田 愛

岡西 雄司

岩竹 俊範

杉浦 絹代

media

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商店建築 2014年8月号

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日経アーキテクチュア2014年6月25日号