開かれた別荘
コロナ禍が訪れる前から、僕は海から近い川沿いに土地を探し始めていた。時間を見つけてはキャンプや雪山に足を運ぶ生活をしていたが、そこには建築はない。設備も用意されていない場所での体験は、毎回心から豊かなものだった。どうすればこの体験に近づくものが建築を通して広く開かれてつくることができるのかを考えていた。自然環境と建築を繋いでいく事業をつくれば、好きなことを仕事にすることも可能であり、またコロナのようなパンデミックが訪れたとしても自分たちの事業ならば、自ら解決策を講じることもできる。そう考え、事業として別荘を作ることにした。
その別荘事業の第1弾が、「いすみの家」となる。ビジネルモデルは、自然環境のよい土地に建築を建て、4組のオーナーでシェアする。オーナーが使わない時は、1棟貸しの別荘として一般に貸し出す。われわれは同時に貸し出せるマッチングシステムの構築や運用のサポートも行う。「自分の別荘」でありながら多くの人に泊まってもらえる用途の幅が広い建築。コロナ·建築·自然·投資の観点を融合させて見えてきたかたちだ。
ここではエアコンは使用しない。その代わり、断熱をしっかり考慮して、あらゆる気候に耐え得る極限値を追求した。目の前を流れる川を利用し涼をつくり出す。ベッドに入る前に、プールに飛び込んで身体を冷却し、天然のエアコンで眠る。寒い日は、薪ストーブで暖まる。エアコンがあればきっと窓を開けることなく、ホテルのようにすごしてしまうだろう。窓を開けて環境の風を感じながらの食事、入浴、就寝が自然と建築の境界をなくし豊かな体験をつくり出す。キャンプのように足しすぎないことで初めて得る体験と、最小機能の建築によって守られた安堵感が相まった状態。財を尽くしたものではなく、体験価値の豊かさを目指した。